音盤紹介:岩城宏之による黛敏郎「舞楽」
公開日:
        
        :
                
        音楽のこと                
      
寒さと温かさが交互にやってきて、
なかな着る服に困りますが、
もう1ヶ月もすると、
「暑い!」となるのでしょうね。
年齢を重ねると、
なかなか季節に身体が合わなくなってきているようです。
少し暖かくなると、
毎年、店長はどういうわけか現代音楽(同時代音楽)を聞きたくなります。
何枚か最近購入したストックはあるのですが、
今回は古~い作品、黛敏郎「舞楽」”BUGAKU”です。
1962年の作品です。
録音は1965年、岩城宏之指揮NHK交響楽団です。
黛敏郎は映画「天地創造」や、
TV「題名のない音楽会」でファンでしたので、
LPで「涅槃交響曲」を最初に聞き、
それから「天地創造」のサウンドトラック、
そして、「舞楽」と「曼荼羅交響曲」がカップリングされたLPを聞きました。
黛敏郎は「キューポラのある町」などの映画音楽も手掛けていますので、
「へ~、あの映画も黛敏郎か!」と驚くこともあります。
その後も交響詩「立山」やオペラ「金閣寺」、
遡って室内楽や初期のテープ作品も聞きましたが、
黛敏郎の作品で、
最も好きな音楽が「舞楽」です。
最初のピアニシモで始まる、
妖しげで官能的な弦楽器のグリッサンドから刺激的で、
管弦楽が徐々に盛り上がり、
壮大さをも感じさせる第一部、
より激しい第二部など、
どこをとっても聞き応えがあります。
「舞楽」は元々バレエ音楽で、
ストラヴィンスキーの影響をもろに受けています。
そのストラヴィンスキーの影響の中にも、
東アジア人のアイデンティティを作品に込めた、
黛敏郎の気概が感じられます。
韓国の尹伊桑、ベトナムのヌエン・ティエン・ダオなど、
モダニズムにあふれた、
優れたアジア人作曲家の嚆矢ともいえる存在が、
黛敏郎であったのかもしれません。
武満徹は、
感覚的には黛敏郎の少し後になります。
「舞楽」は雅楽をモチーフにしているとはいえ、
日本的というより、汎東アジア的な響きのする楽曲です。
中国、韓国にも雅楽のもとになった古典音楽があり、
それを聞いても面白いですよ。
東アジア人のアイデンティティから、
黛敏郎はさらに日本人のアイデンティティにこだわりを持ち、
その思想は右傾化してしまうのですが、
その作品は作家から独立して独り歩きします。
日本人としてのアイデンティティの問題は、
海外に出た作曲家や音楽家には非常に大きな問題で、
とある非常に優秀なピアニストが、
ヨーロッパで、
「お前はベートーヴェンやショパンをうまく弾くが、
日本人としてのアイデンティティはどこにある?」
と聞かれて煩悶、
なかなか自身の作品を生み出せなくなった、
ということをどこかで読んだことがあります。
日本人のアイデンティ=愛国心や国粋主義とは違うと思うのですが、
黛敏郎も国際的に活躍してゆく過程で、
そのことに悩んだのかもしれません。
「舞楽」は、
作曲当時は前衛的な作品という評価があったかもしれませんが、
今聞くと、
とても聞きやすく、
クラシックを聞く方なら、違和感は少ないと思います。
録音はそれほど多くありませんが、
一度聞いておくべきことをお勧めしたい、優れた作品です。
関連記事
-  
                              
- 
              音盤紹介:マタチッチによるブラームス/交響曲第3番ブラームス/交響曲第3番は、 ブラームスがかなり年齢を重ねてから、 年若い女性に恋をした 
-  
                              
- 
              音盤紹介:プラハ弦楽四重奏団によるドヴォルザーク/弦楽四重奏曲全集店長のドヴォ7病...、 すなわち、 ドヴォルザーク/交響曲第7番にはまって抜けられない 
-  
                              
- 
              音盤紹介:VOCES8による”WINTER”11月も半ばに差し掛かり、 京阪神地方もかなり寒くなってきました。 ほんの2週間前、「暑 
-  
                              
- 
              音盤紹介:テンシュットによるマーラー/交響曲第1番1990ライヴ一時、「マーラー・ブーム」といわれるほど、 マーラーの交響曲の録音が増えたことがありました 
-  
                              
- 
              音盤紹介:アランによるバッハ/「オルガンによるトリオソナタ集」一度、オルガンによる バッハ/「オルガン小曲集(オルゲルビュヒライン)」を 取り上げたこ 
-  
                              
- 
              音盤紹介:カラヤンによるホルスト/「惑星」グスターヴ・ホルストの「惑星」は、 店長がクラシックを聴き始めた当時、 まだ一般的な楽曲 
-  
                              
- 
              音盤紹介:マリンバによるラヴェル昼間の気温はガクンと下がるということはありませんが、 朝夕は涼しくなり始めました。 ここ 
-  
                              
- 
              ヨッフムのブルックナー中古LPの蒐集に励んでいる店長は、 最近、バラでオイゲン・ヨッフム指揮、 ブルックナーの 
-  
                              
- 
              音盤紹介:ケーゲルによるブラームス/交響曲第2番ブラームス/交響曲第2番は、 その冒頭、穏やかな田園詩のような音楽で始まります。 ブラー 
-  
                              
- 
              音盤紹介:ワルターによるマーラー/交響曲第9番マーラー・ネタが続きます。 これもまた古い録音ですが、 交響曲第9番、 ブルーノ・ワル 



 
         
         
         
        