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音盤紹介:クナッパーツブッシュによるブルックナー/交響曲第8番

公開日: : 最終更新日:2016/08/20 音楽のこと

kna_bruckner8

クナッパーツブッシュのブルックナー、
セッション録音ばっかり取り上げてきましたので、
今回もセッション録音、
Westminsterへの交響曲第8番です。
ものすごく嬉しいことにステレオ録音です(^^)。

クナッパーツブッシュには、
このWestminster盤と同時期、
1963年1月24日のライヴ録音も残っていて、
そちらはモノラルながらとてつもなく素晴らしい演奏が収録されています。
Westminster盤はその前後にセッション録音されました。

Westminster盤はクナッパーツブッシュの貴重なステレオ録音の一つです。
これはLP時代からの付き合いで、
随分長く聞いてきたことになります。
ただ問題なのは、
LPやCDを含めて、
「何が正しいのか?」が、
かなりややこしいということです。

まずLP時代、
ステレオの左右が逆でした。
第1ヴァイオリンが右側から聞こえてきます。
バイロイト祝祭劇場ばりに、
指揮者の右側に第1ヴァイオリンを配置した録音か?
と思ってレコードのジャケットに載っているオーケストラ配置を見ても、
第1ヴァイオリンは左側です。
トラックダウンの時に、左右逆に収録してしまったようです。
また、エコーはあまりなく、かなりデッドな録音です。

次にCDですが、
初期のPIONEER盤はLPからの板起こしで、
左右の音像は逆のままです。
同じく初期のアメリカMCA盤は、
テープかLPからの板起こしか判然としませんが、
やはり左右逆のままです。

次にイギリスMCAから左右を入れ替えて、
正常な音場でのCDがリリースされました。
ただ、元の音にリヴァーヴを加え、
音に厚みが加わり、聞きやすくしてあります。

日本ビクターのスタッフがマスターテープをWestminsterの倉庫から発見した...
という触れ込みで、
初めて左右の音像正常、
リヴァーヴなどを付け加えないCDがリリースされました。
基本、これが最も正しい音に近いCDでしょう。
CD番号はMVCW-14001/2です。
今回の画像はわかりやすいように帯び付きです。

その後、
Westminsterの販売権をドイツ・グラモフォンが獲得、
アメリカ・プレスですが、
ドイツ・グラモフォンからリリースされました。
ただ、残念ながらイギリスMCAのCDを下敷きにしたのか、
かなりリヴァーヴが加えられ、
聞きやすいですが、
正しい音ではありません。
このCDは、元の音がデッドであまり聞きやすくないため、
ドイツ・グラモフォン盤は聞きやすいことから、
歓迎している人は多いようです。

その後も、
TOWERレコードから出ていますが、
確認できていません。

クナッパーツブッシュのブルックナー/交響曲第8番は、
セッション録音、ライヴ録音を含めて5種類の録音が残っています。
1951年 ベルリン・フィルとのライヴ録音
1955年 バイエルン州立管弦楽団とのライヴ録音
1961年 ウィーン・フィルとのライヴ録音
1963年 ミュンヘン・フィルとのライヴ録音
1963年 Westminsterへのセッション録音
ステレオ録音は、1963年 Westminsterへのセッション録音だけです。

クナッパーツブッシュの使用しているスコアは、
ヨーゼフ・シャルク版(いわゆる初版)です。
ヨーゼフ・シャルクはフランツ・シャルクの兄で、
フランツとともに作曲をブルックナーに師事、
兄弟そろってブルックナーの弟子でした。
ブルックナー/交響曲第8番第1稿は、
当時高名であった指揮者ヘルマン・レヴィ(ワーグナー「パルジファル」の初演者)に、「演奏不可能」と言われ、
自信をなくしたブルックナーは改訂につぐ改訂を重ねてゆくのですが、
初演を可能にしたのはヨーゼフ・シャルク改訂による初版でした。
初演はやはり当時の大指揮者ハンス・リヒターがウィーン・フィルと行いました。
ブルックナーの初版スコアへの批判は、
エルヴィン・デルンベルクの書籍が元になっていて、
日本での初版批判はこの本からの受け売りが多いようです。
でも、虚心に初版を聞くと、
「改悪版」とか「改竄版」のような悪口は通用しないことが分かります。
ブルックナー受容史の中で貴重なスコアだといえます。
シャルク版スコアは、音楽家兼音楽評論家、野口剛夫氏の主宰する
「音と言葉社」から日本でも発売されていましたが、
今も入手できるかどうかわかりません。

1951年の録音から聞けるわけですが、
1951年盤は、ものすごく楽曲に対してリアルな演奏録音です。
1963年の2つの演奏録音を除き、
大きく4種類の演奏内容はどれもかなり異なります。
他の交響曲では、
クナッパーツブッシュの解釈はそれほど変わらないのですが、
第8番ではその演奏内容がかなり変化しています。
1951年のリアルな演奏から、
だんだんと自然体へと変化してゆき、
1963年には、クナッパーツブッシュでしか到達しえなかったであろう、
透明さと自在さを獲得しています。
特に抒情的な部分の素晴らしさ、
雄大で強大なフォルテシモなど、
クナッパーツブッシュのセッション録音は緊迫感が今一つながら、
それでも非常な高みにある演奏録音だと言えます。
第1楽章から素晴らしいですが、
第3楽章の静かな慟哭、
第4楽章の悠然と進むスケールの大きさなど、
聞きどころの多い演奏録音です。

店長にとって、
ブルックナー/交響曲第8番の演奏録音では、
クナッパーツブッシュの一連の録音と、
カラヤンの最晩年、1988年11月に録音されたドイツ・グラモフォン盤が、
いずれも忘れ難い録音です。

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