音盤紹介:クナッパーツブッシュによるブルックナー/交響曲第8番live
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音楽のこと
今年は、
ハンス・クナッパーツブッシュというドイツの大指揮者が亡くなって、
50年になります。
クナッパーツブッシュが亡くなったのは、
1965年10月25日でした。
クナッパーツブッシュというと、
まず、ワーグナーが頭に浮かびますが、
ブルックナーの紹介者でもありました。
交響曲第3番、第4番、第5番、第8番にセッション録音があり、
それらの交響曲にはライヴ録音も残っています。
その他の交響曲では、
第7番、第9番のライヴ録音が複数残っています。
ブルックナーは、
ロベルト・ハースが校訂した第1次全集、
レオポルト・ノヴァクが校訂した第2次全集があり、
さらに、近年ノヴァク版に第1稿が含まれたり、
他の研究者による校訂版も出版されています。
一般的なのは、まずノヴァク版、次にハース版です。
ところが、
クナッパーツブッシュのお臍はよほど曲がっていたのか、
第8番では初版となるヨーゼフ・シャルク版を使っています。
ヨーゼフ・シャルクは、
ウィーンで権勢を誇った音楽家フランツ・シャルクの兄で、
兄弟揃ってブルックナーに師事し、作曲を学びました。
シャルク兄弟は、いわばブルックナーの弟子に当ります。
ブルックナー/交響曲第8番はその昔、
ステレオ録音ではWENSTMINSTERというレーベルの、
クナッパーツブッシュ指揮ミュンヘン・フィル盤と、
カール・シューリヒト指揮ウィーン・フィル盤(EMI)、
オイゲン・ヨッフムの旧全集盤(DG)くらいしかありませんでした。
3つとも非常に優れた録音で、
録音が増えた同曲の中でも、
今でも聞く価値の高い演奏録音だと思います。
そのクナッパーツブッシュに、
WESTMINSTER盤と非常に近接した時期に録音された(1963年1月24日)
ライヴ録音が残されていました。
以前はエアチェックからCD化された音の悪い海賊盤しかなく、
演奏の凄さは伝わるものの、
音の悪さは如何ともしがたく、
「ああ、もっといい音で聴きたい!」と切歯扼腕したものです。
クナッパーツブッシュには、
ブルックナー/交響曲第8番では5種類の録音が残っていますが、
他の交響曲ではほぼ同じ解釈であったのに、
第8番ではそれぞれ解釈、テンポ設定などが異なります。
1951年の録音では、
リアリティのある叙事詩的な性格の演奏が、
だんだんと叙情的になって行き、
最後の1963年には自然で枯淡の境地にまで至っています。
初めてクナッパーツブッシュの1963年ライヴを聞いたとき、
その悲劇的で諦観も幾分込められた演奏に驚きました。
WESTMINSTER盤にさらに緊張感を持たせ、
音楽がより情動的に動いてゆきます。
この演奏録音に揺さぶられない人は、
たぶん、ブルックナーの音楽とは無縁ではないかと思えるほど、
店長は揺さぶられました。
音の悪かった海賊盤しかなかった中に、
音楽評論家平林直哉氏がバイエルン放送局から取得した、
オリジナルテープからのCDが、
日本のDreamlifeからリリースされました。
これには狂喜しました。
年代の割りにモノラルであるのは残念ですが、
真に迫った音でクナッパーツブッシュのブルックナーが響いてきます。
特に第3楽章、第4楽章は
「これ以上の演奏は望めないのではないか」と思えるほど素晴らしく、
ブルックナー/交響曲第8番では、
店長にとっての同曲のマイ・フェヴァリッツの地位は動きません。
Dreamlifeというレーベルは、
店長も2種のクナッパーツブッシュによるドレスデン・ライヴ集と、
第2次大戦中の録音のCDに解説を書かせてもらいましたが、
残念ながら既に活動を停止してしまったようです。
クナッパーツブッシュによるブルックナー/交響曲第8番は、
大げさに言えば「人類の至宝(フルトヴェングラーの第9みたいですが)」と
いっても過言ではないと思います。
決して、取っ付きやすい演奏録音ではありませんが、
中古ショップなどで見つけたら、
是非盤で確保をお勧めします。
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