音盤紹介:マタチッチによるブラームス/交響曲第3番
公開日:
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最終更新日:2014/07/03
音楽のこと
ブラームス/交響曲第3番は、
ブラームスがかなり年齢を重ねてから、
年若い女性に恋をした春の歌でもあります。
スケールの大きな第1楽章で始まるものの、
各楽章最後が全てピアノで終わるという、
華々しさには欠ける一面も持っています。
第3楽章は魅力的で、
映画音楽に使われたこともあります。
第3番は、
まずカラヤンの1960年代のDG盤LPを聞いて、
いっぺんに虜になりました。
第1楽章冒頭から大海原の大きな波に翻弄されているようで、
すぐに静かになるのですが、
この演奏の冒頭をはじめて聞いたときの驚きと感動は、
いまでも心のどこかに残っています。
津波を連想されたらごめんなさい。
もっと平和な海での、大きな波のうねりです。
ただ、カラヤンのDG盤はCDになって音が変わってしまったのか、
残念ながら、CDではLPを初めて聞いたときの感動はよみがえってきませんでした。
さらにフルトヴェングラーのDG盤を聞いたときにも、
ひじょうに大きな感動を得られました。
おそらく、ブラームス/交響曲第3番では、
ベストの録音だと思います。
その後、小生はクナバカと自称する、
ハンス・クナッパーツブッシュの大ファンになってしまうのですが、
そのクナッパーツブッシュには、
ライヴ録音と放送用録音ばかり(正規のセッション録音はありません)、
なんと8種類の録音が残っていました。
その第1楽章の圧倒的なスケールの大きさ、情感の深さに、
今、クナッパーツブッシュのそれぞれの演奏録音を聞いても
音楽の波に翻弄されてしまいます。
フルトヴェングラーの録音がおそらくベストだろうなと思いつつ、
店長にとってはクナッパーツブッシュの録音群が第一です。
ただ、クナッパーツブッシュの第3番は少し異形の演奏です。
クナッパーツブッシュばっかり第3番を聞いていては、
すこし楽曲を誤解してしまうかもしれませんね。
クナッパーツブッシュの演奏とまったく逆方向の演奏ながら、
驚きつつ納得してしまったのは、
セルジュ・チェリビダッケ指揮のイタリアの放送交響楽団のライヴ録音です。
ただ、悲しいかな、
人に譲ってしまい、
ローマのオーケストラだったか、ミラノだったか、トリノだったか、
演奏の年代も確認できませんでした。
チェリビダッケのその演奏は、
クナッパーツブッシュとは逆の、
むしろ、スケールをわざと小さくしたような第1楽章から
大きな肩透かしを食らうのですが、
その後の第2楽章以降、ひじょうに濃厚でブラームスの恋情が
ヒタヒタと伝わってくる異色の演奏でした。
あれ、また聞きたいなぁ…。
ここでご紹介するのは、
ロヴロ・フォン・マタチッチ指揮NHK交響楽団の、
1975年11月19日のライヴ録音です。
当時、NHK交響楽団の演奏をテレビで見ようと思うと、
必ずといっていいほどマタチッチを見ていました。
ただ、若い頃の店長は、
マタチッチを二流の指揮者だと思っていました。
そんなに華やかさはありませんでしたから。
ところが、おじさんになっていろいろなマタチッチの演奏録音を聞き、
これは凄い指揮者なんではないか?
と、見直してしまうことが少なくありませんでした。
華やかさはない、と思っていたのも大きな誤解で、
女性関係も華やかであったそうです…あまり関係ありませんが。
ただ、メジャーオーケストラに登場する機会が少なく、
ユーゴスラビア出身ということも、
「中央から離れている」という認識につながったのかもしれません。
マタチッチはウィーンで音楽教育を受け、
子供の頃はウィーン少年合唱団に所属していたこともあったのですが、
すでに壮年から老年にいたったマタチッチの姿しか店長などは知りませんでしたので、
そういう一面的な見方しかできなかったのかもしれません。
マタチッチは、
バイロイト祝祭音楽祭で「ローエングリン」を指揮したこともあります。
マタチッチとNHK交響楽団との第3番は、
クナッパーツブッシュ張りに重厚、かつスケールの大きな演奏で、
細かな情感もしっかりと聞き取ることができ、
ライヴ特有の演奏の傷はあるものの、
そんな傷などものともしない凄い演奏が展開されてゆきます。
当時のNHK交響楽団はドイツ風の、
どちらかというと渋めの、
地味な音色のオーケストラでした。
でも、その熱演も聞きものです。
この第3番は、
チェリビダッケの若い頃の演奏のような問題意識はありませんが、
音楽を聞いているとき、
また、聞き終わった後も、
「ああ、いい演奏を聞いたなぁ…」と
シミジミとした満足感が得られる録音でもあります。
フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュの録音はモノラルですので、
マタチッチの演奏がステレオで残された、
ということも、大きく感謝しなければならないのかもしれません。
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